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リレーエッセイ【私の経営革新シリーズ】

針生英一

顧客満足度向上は「点源自在」から

ハリウコミュニケーションズ株式会社
代表取締役 針生 英一(宮城県印刷工業組合常務理事)

 印刷物の価格の下落が止まらない。コンピュータによる技術の標準化は、ブラックボックスだった我々固有の技術をクライアントに対してオープンにしてしまい、手の内が明かされる格好となった。インターネットに代表される情報技術は情報配信の仕組みを多様化させるなど、印刷業界を取り巻く環境は激変している。また、自治体の財政状況は破綻寸前となり、4月よりたくさんの市町村が合併することにより、難局を乗り越えようとしている。印刷業にとっては得意先が減るということである。マクロで見ると、どう考えてもフォローの風は吹いていないというのが地方都市の印刷業を取り巻く状況である。しかし、そんな厳しい状況のなかでも事業や商売をやっていかなければならないわけで、いかに今までの古いやり方から脱皮して、成果を上げるかが問われている。
 今回のテーマは「顧客満足度」ということであるが、顧客満足度とはまず「顧客の期待値」をベースに量られていると考えられる。顧客の期待が「5」の時に「3」しか提供できなかった場合は「▲2」となり、満足度が不十分となるが、逆に顧客の期待が「2」しかないところに前述と同じ「3」を提供した場合は「+1」となり、そこそこ満足していただける。客観的に見て、印刷業界は期待値が低い(つまり、あまり期待されていない?)分だけ、ちょっとの努力で日常お付き合いしている顧客との良好な関係を築きやすいと感じている。
 そうは言っても、現実にどうやって得意先の期待値を上回ればいいのだろうか。多くの経営者は、「営業マン教育の充実」といった雲を掴むような話しをする。もちろん個々の営業の能力(人格能力も含めて)が高ければ、顧客満足度を上げるのに苦労しないのだが、古い営業マンは新しい流れに遅れがちであるし、若い人では経験が不足している。本人のやる気の問題も非常に大きいが、営業を一人前に育てるのは非常に大変だと経営者であれば誰もが感じていると思う。これは印刷業界の中だけの話しではない。というのは、我々が一歩消費者の側に回ったときに、我々にモノを売ってくる他業界の営業も似たり寄ったりだと感じることが多い、ということにも現れている。
 営業は外に出たら糸が切れた凧のようだ、と表現している経営者も多い。確かに一度外に出てしまえば、管理することは難しい。最近は営業マンの管理を強化するために居場所が特定できるような装置を持たせた企業もあるようだが、あまり意味はないと思う。管理すべきは「得意先からどんな相談や情報があったのか」であって、「それに対してどう会社として解決するための提案が出来ているか」、ということだと思う。
 得意先も迷路の真っ只中にいる。実はそこにこそビジネスチャンスがあると考えるべきだ。いわゆるソリューションビジネス=課題解決型ビジネスということであるが、言われたものをただ作るだけのビジネススタイルを長年続けてきた印刷業界がソリューション型に変わるには大変な努力が必要だ。つまり、多くの得意先は印刷業界を「相談相手」とは見ていないからだ。相談するに足る相手と認識してもらって初めて相談が来るのであり、そうでなければただの出入り業者として価格を含めて無理難題を吹っかけるだけの相手に過ぎない。
 そう考えると、顧客満足度を上げるためには得意先に対して「会社として」対応していかなければならないことが分かると思う。営業個人の問題だけでは済まない。むしろ、経営者自身が得意先の課題に対してソリューションを提供できるだけの豊かなアイディアを持っているか?が問われている。営業が相談に来たときに、或いは経営者自身が得意先と面談しているとき、得意先の事業について具体的な企画や適切なアドバイスが出来るかどうかを自分自身に問わなければいけないのだ。それが出来もしないのに、社員だけにソリューションを求めるのは本末転倒である。
 会社の中でビジネスに対して一番感度の高い人間はやはり経営者自身であるはずだ。例え最初は自分一人しかいなくても、想いを持てば必ず人は育つ。社内にいなければ、外から一緒に働きたいという人材が現れるだろう。同じ想いを持った分身が1人、2人と増えてくれば、会社の雰囲気も徐々に変わっていく。そういった幹部や社員が営業部門だけでなく、企画や生産部門でも増殖していけば、本当の意味で会社として顧客対応でき得る組織に成長する。そこではよくありがちな部門同士の対立という壁を越えて、得意先支援のためにベクトルを一本化するためのリーダーシップが必要となる。
 会社が質的に成長すればするほど、それに比例して顧客の期待値もどんどん上がってくる。難しいのはその期待に応えるための質的な成長を、一時的なものではなくずっと継続していかなければならないということだ。その部分での息切れは許されない。それが実現できれば、得意先との関係は単なる「出入り業者」ではなく「パートナー」となっていく。そういった流れをつくることがとりもなおさず、未だ装置産業である印刷業を本当の意味でのソフト産業へとシフトさせる原動力となる。
 「点源自在」―物事や環境が変わるきっかけは全て自分にあるという意味の言葉であるが、顧客満足度も全て経営者の意識と取り組み方次第で変わるのだろうと、自戒を込めて感じている今日この頃である。

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